京都店

古い京町家の面影が残る街並みに、世界中から集まった観光客が往来する京都三条通。
45R京都店は地下鉄烏丸御池駅から徒歩5分ほどの場所にあり、国内の路面店の中で最も歴史があるお店。
45Rはこの時期にフラッグシップとなる路面店を次々とオープンしました。1999年に初代Badou-R、2000年にニューヨークSOHO店、
そして2002年に西の本店となる京都店が誕生したのです。

京都店は初代Badou-RやニューヨークSOHO店と同様に、京都の数寄屋大工によって建てられました。
古い町家のような造りで、使われている殆どの素材が力強く骨太な日本の銘木銘石。
京都の文化も取り入れながらつくられたこのお店は、今なおわたしたちにとって特別な存在です。

一文字瓦の庇(ひさし)が大きくせり出し、その下に暖簾がかかる京都店の入口。入口は年月を経て、杢目が色濃く浮かび上がった杉の木で囲われています。これは板を接ぎ合わせているのではなく、丸太小屋のように一本一本の木を積み重ねてつくられたもの。内側から手で押してみると、木の厚みと重みをしっかりと感じることができます。
このトンネルのような入口は橋として見立てられたもので、その下には砂利と石を敷いた「川」が流れています。「R橋」と名付けられたこの橋が建物に対して少し斜めに架けられているのは、日本古来の美意識に基づくもの。左右対称を避けて斜めに配置することで、自然に宿る「不完全な美」を表しています。また、この配置にはお店を後にする人の歩みを緩やかにして、名残惜しさを感じてもらう意図も込められています。桂離宮にもみられる美学を取り入れました。

店内に入ってまず目に入るのは、でこぼことした「名栗(なぐり)加工」が施された四角い栗の木の大黒柱です。耐久性が高く、色味や杢目が美しい栗は縄文時代から日本の家に用いられてきた伝統素材。特にこれだけの太さの栗の木はなかなか出会えるものではありません。栗は大黒柱とその奥の柱、フィッティングの床やお店の両側の壁にも使われており、京都店を象徴する木材です。名栗が施された栗の木は、フィッティングの床材としても心地よく足の裏にあたり、とても快適。

両側の壁には栗の板を張り合わせて京都を囲む北山、西山、東山を描きました。お盆の伝統行事、五山の送り火も板をくり抜いて表現され、店内に異次元の京都が広がっています。

奥の栗柱の周りに設けられた製品棚には、瀬戸内海の犬島で採石された犬島石が使われています。硬く、傷がつきにくく、上品な白さをもつ犬島石は京都の神社仏閣の石材としても広く用いられてきた石。幅2.3メートル、奥行き3.7メートルにも及ぶ犬島石は建物が完成してからではお店に運び込むことができず、地鎮祭と基礎工事が終わった段階でクレーンによって運び込まれた大什器です。フィッティングの壁にも犬島石の石板が使われています。

お店の中央と奥には京町家らしい坪庭と奥庭を設えました。鰻の寝床のように間口が狭く奥行きが深い町家では光や風を取り入れるのが難しいため、坪庭を通じて家の奥深くまで自然光を届け、風通しを良くする仕組みが生まれました。店内に四季折々の変化を映し、自然を間近に感じられる坪庭には「難を転ずる」南天の木と古い礎石が置かれています。礎石は大きな柱を支えるための土台で、力強さの印。奥庭には厄除けや魔除けの意味を持つ槐(えんじゅ)の木が植えられています。お店とともにこの地に根付いた槐は、オープン当時の倍ほどの高さに育ちました。

京都店は20年以上に渡り、愛され続けているお店です。
わたしたちとお客様とのものがたりを刻み、磨かれてツヤを帯びた木や石はオープン当時よりもずっと味わいを増して、豊かな表情になりました。
これまで共に歩んでくださったお客様への感謝とともに、この場所で新たな挑戦を続けていきたいと思います。

【設計・施工】
三角屋
京都府京都市の事務所と滋賀県高島市の朽木工場を拠点とする、三角屋は日本建築をつくる集団。
原木で調達した膨大な木材を揃え、職人の技術によって素材の力を活かした建物づくりをしています。