New York Crosby店

世界中から集まる人々の活気に満ちた街、ニューヨーク。SohoのMercer Streetにはじめて出店してから20数年が経ち、この土地に新たな路面店を開くことにしました。
場所はMercer Streetから歩いて5分ほどの距離にあるCrosby Street。世界中のトレンドやブランドが集まるニューヨークの中で、古き良きアメリカの雰囲気を残す通りです。
お店の屋号は「藍職人いろいろ45」としました。各地の藍染め職人たちとともに織りなす、日本をルーツにしたコレクションのお店です。
日本の伝統に根ざした服であれば、お店のつくりもそうでありたい。建築は通常、その土地のヒトとモノによって建てられるのが常識ですが、今回は日本から木や石、土といった建築資材だけでなく、日本の伝統技術をもった職人さんたちまでニューヨークへと出張してもらい、服も店も全てがMADE IN JAPANの空間をつくり上げました。

  • 大山杉

どこか懐かしいCrosby Streetの街並みに溶け込む、レンガ色の建物に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは鏡を取り付けた4枚接ぎの巨大な杉板です。この板はかつてニューヨークUptownにあったお店のエントランスに設えられていたもので、樹齢400〜500年にもなる鳥取県大山の大杉。中央が大きくえぐられて湾曲し、表面にでこぼことした名栗(なぐり)加工が施されたこの杉板は、まるで大波のような圧巻の迫力でお客様を迎えます。手前には厚さ40cmにも及ぶ高野山の桐の大木が横たわり、プリミティブな力強さが、大山杉と共にこのお店のシンボルとなっています。

  • 暖簾

その奥にかかる暖簾は第二の入口。神社で鳥居をくぐり、神聖な空間で参拝して清々しい気持ちになるように、奥の非日常空間を楽しんでいただきたいという思いで設えました。

  • 栗の什器

暖簾の先に現れるのは、京町家のように長く深い奥行きの空間と、圧倒的な存在感の一枚板を据えた大什器。名栗を施した天板の栗の木はわたしたちが大好きな素材で、縄文時代から日本の家の材料として使われてきました。重厚で美しい杢目があり、経年変化によって味わいを増していく最高の素材です。

  • 杉の名栗

  • 栗の名栗

名栗は弥生時代から続く日本の伝統的な木材加工で、ノコギリなどの道具がない時代に丸太の表面を削り取って建材へと加工していたことが由来の加工法。後に千利休によって茶室の意匠材として数寄屋建築に取り入れられました。名栗が施された木に触れると、その表面の凹凸が気持ちよく肌にあたり、まるでわたしたちのTシャツのようです。

  • 町家石

灰色〜赤茶色の濃淡がみられる錆色(さびいろ)の床石は京都の古い町家石を使いました。日本で実際に石を並べて色やかたちをよ〜〜く吟味して、全ての石に番号を割り当ててから現地でその通りに敷き詰めました。まさに段取り八分、仕上げ二分の仕事です。

  • 待庵の床の間

  • 茶室

  • 楠の椅子

お店の奥には日本国宝の名席、待庵(たいあん)の茶室をお手本に床の間を設えました。
藁すさを混ぜて塗り込んだ、詫びた風合いの土壁に古材の床柱を建てたものです。
立礼(りゅうれい)の茶室では、楠の一木をくり抜いた椅子に腰掛け、お買い物の最後にお茶を召し上がっていただけます。

Crosby Streetの店づくりに一気通貫しているのは日本建築の真髄、それはサステナブルということです。
本物の素材を使えば、木や石は一度建物として組み上げたとしても解体して再利用でき、100年経っても200年経っても朽ちず、腐らず、むしろ味わいを増していきます。
服も同じです。
このお店の地下には「満足工房」のアトリエを構えました。良い素材の服は着なくなったとしてもサイズやかたちを直せば、また愛用していただくことができます。
本物の原料を使うことはヒトにも地球にも、そして長い目で見ればお財布にもやさしいのです。

このお店では、わたしたちのものづくりの精神を世界中の人々に感じてもらいたいと思っています。
どうぞ末永くご愛顧いただけますよう、よろしくお願いいたします。

【設計】
新素材研究所
現代美術作家の杉本博司氏と、建築家の榊田倫之氏によって、2008年に設立された”新素材研究所”。
伝統的な素材と技術を研究し、それらを用いて全く新しい建築をつくる試みに取り組んでいます。
アソシエイトアーキテクト:YUN Architecture
施工:conceptcsi
大工工事:株式会社イシマル
左官工事:株式会社久住左官

【素材提供】
三角屋
京都府京都市に事務所と滋賀県高島市の朽木工場を拠点とする、三角屋は日本建築をつくる集団。
原木で調達した膨大な木材を揃え、職人の技術によって素材の力を活かした建物づくりをしています。