Collection Spring 2026

二〇二六 はる

あとがき

私も年をかさねて、近年は会社の継承のことを考えるようになりました。経営的継承もむろん大事ですが、より大切で、しかも難しいのは、文化的継承だと思っています。言いかえると、前者は数字、後者は心。会社を支える「根っこ」になるのは、社員一人一人の心の持ちようだからです。
45Rは昔から「祭」に力を入れてきました。春と夏、そして正月です。本店にお客様を招き、社員総出でもてなします。花見、氷、餅つきなど、それぞれが持場で務めに専心しつつ、その全体を俯瞰すると、一糸乱れずと言いたいくらい調和している。私は、そうした「祭」の光景を眺めるのが好きでした。これが45の文化であり、この一体感、集中力は、むろん服作りにおいても発揮されるものだからです。
ところが昨年末、ある店舗で行なった餅つき祭は、どこか精彩に欠けていました。社員たちはいつも通り笑顔でお客様をもてなしています。お客様も満足そう。でも何かが足りません。全体に調和がなく、芯もない。つまり本当の意味での「心」がないと感じてしまい、その衝撃を受けたまま、年末年始を過していました。
例えば、ガスコンロで湯を沸かしていましたが、かつてであれば薪でした。また、ついた餅を配る器がプラスチックで、誰もそのことに違和感を覚えなかったということに、大袈裟かもしれませんが危機感を抱きました。
祭も、事業も、こうした些事こそ大事なのです。数年前の夏祭では、かき氷用の氷を調達するのに、或る社員は何軒もの氷屋に足を運び、説明し、相談し、氷を吟味厳選していました。たかが氷、かもしれません。しかしそれを、同じことを、綿、糸、染め、縫い等々で日々行なっているのが私たちの会社なのです。
「祭」は、そうした心構え、すなわち45Rの心を社員と共有し、育む場として、今後いっそう力を入れて、続けてゆきたいと思っています。
橋 慎志